第38章 「恋の和歌集(2)三成様編」
長い坂を上り、辿り着いた図書館。
来たのは、中学の受験以来かも。
確か、帰り道この坂で転んで……
私は上ってきた坂を見下ろす。
ーーばか。受験前に普通、転ぶ?
ーーうぅ。ちょっと、一気に駆け下りて見たくなったんだもん。
ーーっとに。危なっかしくて困る。
そう言いながらも、手を貸してくれて。負んぶして坂を降りてくれた家康。
ーー……重い。
ーー女の子に、それは禁句!
ーー……ひまり。高校合格したら……。
ーー合格したら?
ーーやっぱ、何もない。
(あの時、何か言いかけて止めたんだよね?)
今度、聞いてみようかな?
って、忘れたって言われそうだけど。
「さっきから、何をお考えで?頬が緩んでいますよ」
三成君に言われて、気付く。
内緒!って笑ってみせると、
私は一気に図書館まで走る。
今は、テストに集中しないと!
赤点取ったら、何されるか分かんないから!
織田先生の、鬼の形相を思い浮かべながら図書館の中に、足を踏み入れた。
館内には私達と、
同じ年頃の子がちらほらいて……
「では、三成先生。お願いします」
小声でそう言って私がお辞儀をすると、三成君はこちらこそと言って微笑みを浮かべる。
眼鏡をはめた瞬間、真剣な表情に切り替えし、
「では、まずコツから……」
説明を始めた。
「ひまり先輩の、ストーリー性を追うのは良いことですよ」
「でも、範囲以外の所まで、気になっちゃって……」
「なら、語呂合わせの感覚で、身体で覚えましょう」
身体で??
どうやって?
三成君は席を立ち、私の手を掴む。
「館内なので、お静かに……」
お願いします。
三成君の眼鏡の奥に、
妖しい光が微かに浮かんだ。