第190章 〜おまけエピソード(1)〜
縁側の廊下から
外へと手を差し出せば……
痺れのような感覚があった。
目を凝らせばまだ、小雨が降り続き、暫くして微かに強まった気がする。
ふと、男は垣根に目を向け……
(椿……?それにしては、時期が早すぎる)
何色かも暗過ぎて分からなかったが、小さな固い蕾が一輪。
ぼんやりと見えた。
無性に気になって草履を手に取り、雨の中、庭園へ下りようとした時だ。
「家康様〜。此方にいらしたのですね〜」
パタパタと廊下から足音が聞こえ、
振り返った時には……
女が背後からしがみ付き。
ガサッ……
男がそのまま、音に反応して庭先に再び視線を戻せば……
ハラリと傘が舞う。
「ひまり……っ!!」
懐かしい小袖が、
一瞬微かに暗闇に浮かんだ。
ドンッ!
「きゃあ!!……何をなさいますの!」
「それは、こっちの台詞」
男はヨロけた女を睨み、吐き捨てるような言葉を残して、姿を消した背中を追いかけた。
強まる雨。
そう遠くは言ってないはずだと、屋敷の外に出れば……
「俺がわざわざ送り届けてやったのに。無下にしおって」
「ひまりは、何処にっ…!!」
「以前のように駆けずり回って探せ。そして、教えてやれ。美しさが変わらんのは、自分が……いつまでも変わらず、愛しておるからだとな」
自分の前を通り過ぎる、
辛子色の羽織を見て……
「神は今も時折、刺激を与えるらしいな」
いや、悪戯か?
フッと笑った。
愛が深まるだけだと、言うのに。