第190章 〜おまけエピソード(1)〜
何気なく石碑に触れた時。
カサッと足元で何かが動き、俺は草履の近くに落ちていた、白い物を拾う。
「巻物か?にしては、ちっぽけだな」
「家康公、開けてみて下さい」
悩むよりも先に、
巻いてある白詰草を解く。
そして紙を広げた。
暗闇で目を凝らし……
字の綴りですぐにひまりが書いたの物だと分かった俺は、佐助に見せる。
私へ
『時を越える力が現れても、決して愛する人を、自分を見失わないで』
読み上げて貰った後、受け取り指の腹でそっと字をなぞる。……まだ完全に墨が乾いていない。
(まさか、城を抜け出してここに……?)
すっかり酔いも覚め、辺りを見渡すが姿はなく、ここに向かう道中すれ違うこともなかった。
となると、
ここに来たのは、もう少し前。
「私へと書いてる所を見る限り、タイムカプセルですね。……しかし、それなら土の中に埋めるはず。……何かのまじないのつもりで?」
タイムカプセルとは、未来の自分に宛に文を書いて埋め、後に掘り起こすのが来世では一般的だと佐助は説明。
「けどよ、ワームホールが消えた今、来世の自分にそんな文書くか?」
「幸村に、複雑な乙女心を理解するのは難しいだろう」
「お前なぁ……!」
「……しかし、タイムカプセルなら、まず置かずに埋めるはず」
ひまりも、その事は知っているはずだと佐助は言い、
「今夜は新月です。何かの願掛けをするのに最適だと言われ、満月の日に成就すると。もしかしたら、彼女はそのつもりで……」
「もし願掛けなら。……見たことで、効果半減したかも」
だったら、大変。
俺はそう言って口元を緩め、
手で穴を掘り始めた。
「ばっ!お前、汚れんぞ!」
「人を殺めてた刀で、掘るわけには……って、俺の手もそんなに変わんないけど」
ひまりが、自分自身に伝えた言葉。
それをいつの自分に届けたいのか、届けて欲しいのかは分からない。神頼みしたのか、誰に頼んだのかも知らないけど、半減した分は俺が叶えないと。
必ず幸せにして。
ひまりが
自分自身を、見失わないように。