第190章 〜おまけエピソード(1)〜
月明かりのない夜。
おぼつきそうな足。
ガンガン叩かれたように、重い頭を手で押さえ、石段を降りる。
前祝いだと、政宗さんに御殿に呼ばれ、のこのこ行ったのが間違い。折角の料理を食べる暇もなく、次から次に皆んなから波並みと酒を注がれ、挙句に……
「底なし……」
「あ?それ、褒めてんのか?」
軽い足取りで、石段降りていく幸村にいきなり飲みっぷり競争を吹っかけられ、調子に乗って受けたのがそもそもの間違い。
「主役を本気で潰したら、明日の結婚式だったか?元もこーもねぇからな」
歯を見せて笑う幸村は、顔色は至って普通。ここまで酒豪なのは、予想外。
俺は浴びるほど呑み、さすがに限界の一歩手前で盃を置いた。大事な日を目前に、酔い潰れたらそれこそ元もこうも無い。
(夜風で大分冷えたとは言え、歩いてんのが、ほんと不思議なぐらい)
チラッと横目で隣を見れば、佐助が無言で静かに歩いている。
「本当にワームホールは、消滅したわけ?」
「はい。今は影も形も存在もありません。安心して下さい」
「なら、良いけど。ひまりが、こっちで仕立てた着物を来世に置いてきて……気にしてたから」
「その辺りがどう影響するかは、俺にも分かりません。しかし、俺達がいた世界でも着物は珍しいものでは、ありません」
大した影響はないはず。だと、佐助は話す。俺はそれを聞いて、軽い安堵の息を吐いた時だ……
「折角だからよ!石碑寄っていこーぜ!石碑!」
「……何で?俺はもう帰っ……」
ガシッ!!
両側から急に脇を抱えられ、
「家康公、リハーサルですよ」
リハーサル?何それ?と、言葉を挟む暇もなくズルズルと二人に引き摺られ、気づけば石碑の前に立っていた。