第190章 〜おまけエピソード(1)〜
静けさが運んでるのは……
ーー家康!!
ーーふふっ。家康?
ーーい、…えやす。
愛する者が自分を呼ぶ声。
それは明るく、優しく、時には不安げに。
今も昔も変わらない声。
けど、男は気づいていた。
最近一つ変わったモノ。
それは、笑顔だと。
女は何時迄も美しくいたい。
そう願うのが一般的な考え。しかし、愛する者は鏡を見る度に顔色を曇らせ、老いていくのが周りより遅いことに不安を募らせているのが、手に取るように見えていたのだ。
前よりも時間がゆったり流れ出し、自分が多忙な日々が続き、一緒に過ごせる時間はほんの一握り減り。それが余計に不安を煽らせたのだろう。
以前から戦に行けば、数ヶ月戻らない日など多々あったのだが……
戻れば、愛する者は真っ先に出迎え、しがみ付き、泣きじゃくり、笑い、話し、愛し合いながら朝を迎える。
その繰り返し。
それが、
いつからか優しく出迎え、静かに見送る日々に変化。抑えて我慢していると言うより、一生懸命支えようとしているのが伝わり……自分自身も目まぐるしい日々に、甘える隙を与えているつもりでも、現に与えれていなかった事実を、男は悔やむ。
この文がその証拠だろう。
(お互い、変なトコは変わらない)
『父の元へ参ります。暫く身を置いて、親孝行が少しでも出来ましたら、すぐに戻ります』
潤いが足りない白詰草で、
巻き物のように包まれていた文。
隠し事は一切しないと、後に石碑で約束した二人だったが……これに良く似た文を、新月の夜に見つけ、男がこっそり埋めたのは……
約束前の話。