第188章 〜後日談〜Halloweenイタズラ〜姫主様×家康様
ただ真っ直ぐ前を向いて、私を守るように時々、鏡に手をついて確認しながら迷うことなく突き進む。
赤い橋の二人。
同じ名前。
そして着物。
(何だろう。さっきまでそんな事、全然気にならなかったのに……)
この部屋に入った時から、
何故か気になり出した。
家康は五つ目のクッキーのスタンプを見つけ、私の手からシートを受け取ると、ポンと軽く押す。
それを見て、背中から腕を回して身体を隙間なく寄せる自分が居た。
「どうしたの?」
「何でもないよ!早く出よう」
無理矢理明るい声を出す。
本当は、
恐怖、違和感、不安、脅威、圧迫感。
不意に冷たい水を浴びたように、膝がガクガク震えだす。
鏡を見れば見る程。
閉じ込められたような。
もう二度と出られなくなるような。
なるべく視界に鏡を映さないように、広い背中を見て歩いた。
暫くして、
ピタリと急に家康の足が止まる。
ちらっと前を向けば、どうやら出口に辿り着いたみたいで……
「六つ目。あるけど、どうする?」
「もう、出口なんだよね。なら、押してくる」
光が見えてホッと胸を撫で下ろした私は、背中に回していた腕を離す。そして、出口横のスタンプ台にトコトコ歩き……
「Halloween」英文字スタンプを、六つ目に押す。
その頃には、すっかり心が落ち着いて。抜け落ちたみたいに、何一つあの中で感じたモノは嘘みたいに消えていた。
「凄い〜!クリスマス特別、大観覧車乗車券だって!」
「クリスマスって……今日より、人多そうだし」
家康はモノクルを中指で押し上げて、うんざり声。でも、行かないとか、無理とかは絶対言わない。
「約束ね!!」
小指を出して笑えば、
「……はぁ。お嬢様の申し付けなら、なんなりと」
いきなり、執事モード。
凄い様になってきたね?
って冗談ぽく言ってからの、後悔。
「今から、全力で……」
ご奉仕してあげるから。
覚悟しなよ、お嬢様?
艶かしく動いた赤い舌。
イタズラスイッチがオンになった、瞬間だった。