第8章 11月
あおさんが席を立ったとき、私と目が合った。
あ、という顔をしてから、一礼された。
一礼仕返してから、あおさんに近づいた。
誰も居ない、朝早い病院。
「あおさん」
「聞いてました?・・・今の」
「えぇ。全部」
二人でクスクス笑い合った。
あおさんの、笑顔が見れた。
「記念日。思い出しました。昨日の夜中」
「遅いですよ」
そうやって笑う顔が、見ててつらい。
「我慢させてたんですね。俺」
「大丈夫ですよ」
「立派なお姉さんになっちゃって」
「ふふっ」
冷たくて白い頬を撫でた。
「ねえ、あおさん」
「はい?」
「お家で、たっぷり甘えさせてあげる」
驚いたあおさんは、その後すぐににっこり笑った。
「・・・はい!」
「ごめんなさいね」
「私こそ、むきになってしまって」
「いいから。もう我慢しないでくださいよ?」
「わかりました」
そっとあおさんと唇を重ねた。
「お仕事頑張って」
「はい!」