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銀魂 蝶の唄

第2章 ベンチ


****

……さて。これからどうしようか。

すべり台に背中を預け、だらしない格好で座る。


長谷川さんは、寝てるのかな……。


真っ暗な空には、ほんの少し紫色の光が射している。
私がここにやって来た時点で、もう真夜中だったからもうすぐ夜が明けるのだろう。


……朝日、見たいな。


立ち上がると、小さなすべり台の階段を一段一段のぼっていく。

私は幼い頃から病院にいたから、公園で遊んだ事がなかった。

すべり台、ブランコ、鉄棒、ジャングルジム……。

絵本の中に描かれた公園は、私にとって夢の国で何度も見ては憧れていた。


わくわくしながらのぼると、てっぺんは案外広く、周囲を囲うカラフルな柵は、どれも塗装が剥げかけていた。

あちこちには子どもの落書きがある。

暗い気持ちを払拭してくれるような、下手くそな落書き。


私は『へのへのもへじ』の落書きをそっと指でなぞってみる。


「それ、いい絵だろ?」


振り返ると、長谷川さんが笑っていた。


「ただの落書きですよ?」

「だからいいんじゃねぇか。子どもらしくてよ」


長谷川さんは私の隣にしゃがむと、

「この落書きは歌舞伎町のガキ大将、よっちゃんが描いた絵でな。こっちのはよっちゃんの腰巾着の……」


公園でよく子どもを眺めてきたのだろう。


よっちゃんが好きな子の側では無口になる、だとか。

よっちゃんの腰巾着は存在感が薄い、だとか。

よっちゃんのことばかりだけど、教えてくれた。


「よっちゃん、って相当強い権力者なんですね」

「いや今はそうでもないな。歌舞伎町の女王、神楽様が降臨したから」

「神楽様……?」

「よくこの公園に来るんだけどよ、かわいい顔して毒舌なんだよなぁ……」

「へぇ……」


ということは、このまま公園にいれば神楽ちゃんに出くわすかもしれないのか。


「でも何か……。楽しそうですね」

「そうだろ?」

にっ、と笑った長谷川さんに私も微笑み返す。



空を見上げると、紫色の光の中から明るい陽が顔を出していた。


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