第2章 ベンチ
ペンギンお化け、もといエリザベスさんと別れた後、寝床を探すために歌舞伎町をぶらぶらと歩いていた。
今は真夜中なのか、町は静まり返っている。
ただ月明かりだけが静かに町を照らしていた。
その明かりが川に反射して、きらきら光っている。
人気の少ない夜の町を散歩するのは予想以上に楽しかった。
いつしか寝床探しではなく、歌舞伎町を観光している気分になっていた。
しばらく歩くと児童公園を見つけた。
錆び付いたベンチとブランコと、子供用のすべり台があるだけの小さな公園。
すべり台に描かれたパンダのイラストは塗料が剥げ、不気味に笑っていた。
「ここでいいかな」
静かで落ち着いた場所。
遊具が少ないから、子どもがたくさんやって来ることもないはず。
私は児童公園へと足を踏み入れ、奥にあるベンチに腰かける。
ベンチには缶コーヒーが置かれていた。
「これは…、さすがに忘れ物じゃないかな」
缶を手に取り、空き缶用のゴミ箱にシュートをする。
缶は弧を描き、中から黒い液体を吐き出しながら
ゴミ箱に入った。
「あ…、まだ中身入ってたのか」
「そうだよ、何捨てちゃってくれてんだよぉ!」
「うわ…っ!?」
突然ベンチの下から這い出て来たのは、茶色の甚平羽織を着たサングラス男。
「あ、えっと…、すみません」
「新しいのを買って来ないと許さないもんね!」
「…………」
新しいもの、と言われても。
平成時代の通貨、銀魂の中で使えるのかな。
公園の隅に自動販売機を見つけた。
「あの、じゃあ買えたら買ってくるんで」
自動販売機の前に来ると千円札を入れ、缶コーヒーのボタンを押す。
がこん、と音がして缶コーヒーが出てきた。
「はい、どうぞ」
手渡すと、驚いた顔で見返された。
「どうかしましたか?」
「いや、本当に買ってくるなんて思ってなかったから……」
「私の分も買いたかったので。ついでです」
プルタブを押し上げ、二人で缶コーヒーを飲む。
「アンタ、若ぇのになんでこんなところにいるんだ?」
「さぁ。こっちが聞きたいですよ」
「俺も…、今なんでここにいるのか分からねぇんだ。どこでどう間違ったのか」
「お互い大変ですね」
「そうだな……。俺、長谷川泰三っていうんだ。アンタの名前は?」