第6章 スナック『すまいる』
屯所内が騒がしくなってきた頃、私は目を覚ました。
廊下を走る音、「副長!」と叫ぶ声。
その全てが慌ただしく、只事でないことを思い知らされる。
何かあったのか……。
宴会でドンチャン騒ぎならまだしも、こんな慌ただしい屯所の中で悠々と寝てはいられない。
それに、お腹も空いた……。
目を擦りながら、起き上がると、右頬に妙な違和感がある。
そっと撫でると、ガタガタの畳の跡がついていた。
「やば、恥ずかしい……」
畳の跡が消えてから、部屋を出ることにしよう。
……と思った矢先、私の部屋の襖が勢いよく開いた。
「おい、雌豚」
沖田さんである。
「はいっ……!何でしょうか!?」
ガチガチに体が固まり、思わず声が裏返ってしまった。
井戸での出来事があったため、沖田さんには恐怖心しか抱いていない。
そんな私を沖田さんは一瞥し、口を開く。
「山崎と近藤さん、どこにいるか知らねェかィ?」
「いえ!存じ上げませんっ……!!」
フィギュアを返しに行ったきり、山崎さんを見ていない。
近藤さんに至っては今日一日、会っていない。
「そうかィ。つーことは、あの通報はデマじゃねェかもなァ」
「通報……?」
思わず口から零れてしまい、慌てて口を塞ぐ。
女中のくせに首を突っ込むな。
そう言われることを覚悟したが、意外にも沖田さんはちゃんと事情を教えてくれた。
「スナックすまいるで、立てこもり事件が発生してんでさァ」
「立てこもり事件、ですか」
「どうやら、それに近藤さんと山崎が巻き込まれているらしい」
………山崎さん。
何でフィギュアを返しに行った後にスナックに行ったんですか。
「じゃあ、助けに行かないと!」
「下手に俺達が動けば、山崎はいいとして、近藤さんに怪我させちゃいけないだろィ?」
……山崎さん。
スナックに行きたくなる気持ち、分かりました。
不憫すぎる!
「なぁ、雌豚」
沖田さんは何を考えているのか、怪しげに笑みを浮かべた。
「ここはアンタの出番じゃねェのかィ?」
「はぁ……」
私の出番ですと……?