第4章 公園
町から離れた、静かな公園。
長谷川さんは出かけているのか、いなかった。
真選組の女中になりそうなことを伝えたかったのだけれど。
私はベンチに座ると、ぼんやり空を見上げた。
……今夜は満月だ。
『ねぇ、お姉ちゃん。どうしていつも外ばかり眺めてるの?』
『寂しいからだよ』
『寂しいの?どうして?』
『お姉ちゃんにはね、何にも無いの。家族も、友達も。だからね、寂しさを紛らわすために外を眺めてるんだよ』
『そうなんだ……。
じゃあさ、紗奈がお姉ちゃんのお友達になるよ!
だからさ、お姉ちゃん。いっぱいいっぱい笑おうよ!』
五歳の女の子の手は小さく、優しい温もりを帯びていた。
****
昨夜公園に現れた、あの娘。
今夜もいるのだろうか、と目を凝らす。
公園の奥にあるベンチに、人影が見えた。
徐々に近づくに連れて、人影の正体がはっきりする。
紗奈だ。
すやすやと寝息を立てて、眠っていた。
「泣いていたのか……?」
きらきらと目元が光っていた。
心做しか、眠っている表情も険しい気がする。
俺は自分の甚平羽織を脱ぎ、そっと紗奈に着せた。
「ん……」
紗奈はゆっくりと目を開き、俺の姿を見ると目を丸くした。
「長谷川さん!」
「何だ、起こしちゃったか」
「いえ。それよりも上裸ですよ……?誰かに剥ぎ取られたんですか?」
そして俺の羽織が、自分に被さっていることに気づくと
「ごめんなさい、ごめんなさい!寝惚けてたんです……多分!!」
顔を真っ赤にして、必死に謝ってきた。
クールな印象があったのだが、意外に天然でピュアな子なのかもしれない。
「長谷川さん。あの、お伝えしたいことがあるんです」
「ん?」
俺は紗奈の隣に腰かけた。
「実は私……真選組の女中になりそうなんです。まだ分からないんですけど」
「いいんじゃないか?」
若い娘がこんな寂れた公園にいれば、何があるか分からない。真選組にいた方が絶対に安全だ。
紗奈なら、すぐクビになったりはしないだろう。
「応援してるから」
「はいっ!頑張ります!」
紗奈は満面の笑みを浮かべた。