第1章 プロローグ
ギギギギ、と錆びた鉄の軋む音。
重たい屋上のドアをゆっくり開ける。
屋上へ出ると中央のベンチに熊のぬいぐるみがぽつんと座っていた。
忘れ物かな。
くりくりの大きな目。
真ん丸の耳。
首には赤い蝶ネクタイ。
「さな」と名前が書かれていた。
「隣、いいかな?」
返事が返ってくるわけがなく、ぬいぐるみの隣に腰かけた。
今日の夜は肌寒い。
カーディガン羽織ってきてよかった。
顔を上げると、夜空に月が浮かんでいた。
黄色に輝く月は、病室の窓から見るよりずっと大きく綺麗に見える。
「ねぇ。人って、死んだらどうなるのかな」
今度は返事が返ってくるかな。
少し期待しながら、ぬいぐるみに話しかける。
「つまらないんだよね。毎日毎日、病室でさ」
「それに私が生きてると、叔母さんたちに迷惑かかるんだ。入院費とか、手術費とか……」
「私がこんな遅くにここに来たのはね、死のうかなって思ったからなんだ」
ベンチから立ち上がり、屋上の柵へと歩み寄る。
ひとつひとつ慎重に足をかけ、両腕で自分の体を持ち上げる。
「話、聞いてくれてありがとう。さなちゃんに君のこと伝えておくね」
最後までよじ登ったあと、
私は飛んだ
はずだった。