第1章 プロローグ
朝起きて、那美に修行の指示を出す日々。
彼女は素直で明るくて物分りのいい子だった。
妹、というか娘が出来たような気持ちになった。
「阿伏兎、これがわかりません」
あと異常なまでに世間知らずなところがあり、生活の大部分を教えないといけないこともあって、余計に可愛かった。
そんなある日、神威は俺に小さな傘を渡してきた。
「那美用、ですね」
いつかこれを使う日が来るのかと思うと、悲しいような辛いような、切ない気分になった。
「…なんかさ、どうやら俺の親戚の子を惑星Rでひき取ったて言う噂が広まってるみたいで、
今度の定期集会に連れてきて欲しいって上から言われたんだよね。…多分、戦場デビューは近いんじゃないかと思う。もちろん、第七師団の一員として」
「……」
はっきり言って、実践で使えるほどの準備はまったく出来ていない。
そして、もっとも問題なのは、彼女の性格がまったく戦闘向きじゃないことだ。
「…阿伏兎から那美に伝えてよ。
『これを使うときは良く考えろ。
それを振るったら…もう後には戻れない。振るったが最後、夜兎として生きるんだと心得ることだ』ってね」
神威が俺を見上げるその目は、どこまでも暗く冷たい。
那美に肩入れしてるのも分かっている神威の、俺に対する決意を促す言葉であったのかもしれない。
この時は気づかなかったけど、後々思ったのは、この時、上に那美の存在を報告したのは神威だったんじゃないかということだ。
…あの人って、ほんと誰も信じてねぇよな。