第88章 ボーバトンとダームストラング
その日は、心地よい期待感があたりを満たしていた。夕方に、ボーバトンとダームストラングからお客が到着するということに気を取られ、誰も授業に身が入らないようだった。魔法薬学の授業がいつもより30分短くなったことで、グリフィンドール生は多いに喜んだ。
「終わった〜」
「早くいかないとね」
早めの授業終了の鐘が鳴り、私たちはそれなりに急いでグリフィンドール塔に戻って、指示されていたとおりカバンと教科書を置き、マントを着て、また急いで階段を降り、玄関ホールへと向かった。各寮の寮監が、生徒たちを整列させている。
「ウィーズリー、帽子が曲がっています」
ミネルバからロンに注意が飛ぶ。
「Ms.パチル、髪に付いているバカげたものをお取りなさい」
パーバティは顔をしかめて、三編みの先に付けていた大きな蝶の飾りを取る。
「ついておいでなさい。一年生が先頭...押さないで...」
みんな並んだまま正面の石段を降り、城の前に整列した。晴れた、寒い夕方だ。夕闇が迫り、禁じられた森の上に、青白く透き透るような月がもう輝きはじめている。
「ちょっと、寒いわね」
『そうね、大丈夫?』
「えぇ、大丈夫よ」
隣のクレアと会話を交わす。
「まもなく、6時ね。どうやってくるのかしら?」
「列車かな〜」
クレア達は、様々な推測をしている。しかし、その中に答えはなかった。誰もが興奮して暗闇の迫る校庭を調べるように眺めたが、なんの気配もない。すべてがいつもどおり、静かにひっそりとしていて動きはなかった。私は、寒さに自分の腕を擦る。そのとき、アルバスが、先生方の並んだ最後列から声をあげた。
「おー!わしの目に狂いがなければ、ボーバトンの代表団が近づいて来ておる!」
生徒たちがばらばらな方向を見ながら熱い声をあげる。
「あそこだ!」
6年生の一人が、森の上空を指差して叫んだ。みんながそちらに注目する。濃紺の空をぐんぐん大きくなりながら、城に向かって疾走して来ていた。
「ドラゴンだ!」
「バカ言うなよ...あれは、空飛ぶ家だ!」
すっかり気が動転した1年生の1人の金切り声に、デニスがそう言った。どちらかというと、デニスの推測の方が近いだろう。巨大な黒い影が禁じられた森の梢をかすめたとき、城の窓明かりがその影を捉えた。巨大な、パステル・ブルーの馬車が姿を現す。