第85章 マッド・アイ・ムーディ
「え?ずっといるんじゃないの?」
ムーディ先生の言葉を遮って、ロンが口走った。ムーディ先生の魔法の目がぐるりと回ってロンを見据える。ロンはとても不安がっているようだが、やがて、ムーディ先生がふっと笑った。
先生が笑うところは初めて見る。傷痕だらけの顔が笑ったところで、ますますひん曲がり、捻れるばかりだった。それでも、笑うという親しさを見せたことは、何かしら救われる思いがした。ロンも心からホッとした様子。
「え...笑ったわ...」
クレアがポツリ呟く。ムーディ先生の魔法の目が一瞬クレアを捉えた気がした。
「おまえは、アーサー・ウィーズリーの息子だな、え?おまえの父親のお陰で、数日前、窮地を脱した...ああ、1年だけだ。ダンブルドアのために特別にな...1年、その後は静かな隠居生活に戻る」
ムーディ先生はかすれた声で笑い、節くれ立った両手をパンと叩く。それから話し続ける。
「では...すぐ取り掛かる。呪いだ。呪う力も形もさまざまだ。さて、魔法省によれば、わしが教えるべきは'反対呪文'であって、そこまでで終わりだ。違法とされる闇の呪文がどんなものか、6年生になるまでは生徒に見せてはいかんことになっている。おまえたちは幼すぎて、呪文を見ることさえ耐えられない、というわけだ。しかし、ダンブルドア校長は、おまえたちの性根をもっと高く評価しておられる。校長は、おまえたちが耐えられるとお考えだし、わしに言わせれば、闘うべき相手は早く知れば知るほどいい。見たこともないものから、どうやって身を守るというのだ?今にも違法な呪いをかけようという魔法使いが、これからこういう呪文をかけますなどと、教えてはくれまい。面と向かって、やさしく礼儀正しく闇の呪文をかけてくれたりはせん。おまえたちのほうに、備えがなければならん。緊張し、警戒していなければならんのだ。いいか、Ms.ブラウン、わしが話しているときは、そんな物はしまっておかねばならんのだ」
ラベンダーは跳び上がって、真っ赤になった。完成した自分の天宮図を、パーバティに机の下で見せていたところだったのだ。ムーディ先生の魔法の目は、自分の背後が見えるだけでなく、どうやら堅い木も透かして見ることが出来るようである。