第82章 闇の印
クラウチ氏以外は、魔法省の誰も、私達があの髑髏を造り出すなど、とうてい有り得ないことだと思っているようだ。ハーマイオニーの言葉を聞くと、みんなまたいっせいに杖を上げ、暗い木立ちの間を透かすように見ながら、ハーマイオニーの指差した方向に杖を向けた。
「遅すぎるわ。もう姿くらまししているでしょう」
ウールのガウン姿の魔女が頭を振って言う。
「そんなことはない。失神光線が、あの木立ちを突き抜けた..犯人に当たった可能性は大きい...」
茶色いヒゲの魔法使いが言った。よくみるとそれは、エイモス・ディゴリー。セドリックのお父さまだった。
「エイモス、気を付けろ!」
肩をいからせて、杖を構え、空地を通り抜けて暗闇へと突き進んで行くセドリックのお父さまに向かって、と、何人かの魔法使いが警告する。数秒後、セドリックのお父さまの叫ぶ声が聞こえた。
「よし!捕まえたぞ!ここに誰かいる!気を失ってるぞ!こりゃあ...なんと...まさか...」
「誰か捕まえたって?誰だ?いったい誰なんだ?」
信じられないという声でクラウチ氏が叫んだ。小枝が折れる音、木の葉の擦れ合う音がして、足音とともに、セドリックのお父さまが木立ちの陰から再び姿を現した。両腕に小さくてぐったりしたもの...ウィンキーを抱えている。
クラウチ氏の足下にウィンキーを置いたとき、クラウチ氏は身動きもせず、無言のままだった。魔法省の役人が、いっせいにクラウチ氏を見つめる。数秒間、青白い顔に目だけをぎらつかせ、クラウチ氏はウィンキーを見下ろしたまま立ちすくんでいた。
「こんな...はずは...ない。絶対に」
やがて、やっと我に返ったかのように、途切れ途切れにクラウチ氏が言う。クラウチ氏は、さっとセドリックのお父さまの後ろに廻り、荒々しい歩調でウィンキーが見つかったあたりへと歩き出した。
「無駄ですよ、Mr.クラウチ。そこには、他に誰もいない」
セドリックのお父さまが背後から声を掛けたが、あちこち動き廻り、木の葉をガサガサさせながら、茂みを掻き分けて探す音が聴こえてきた。
「なんとも恥さらしな。バーティ・クラウチの屋敷しもべとはなんともはや...」
ぐったり失神したウィンキーの姿を見下ろしながらそう言ったセドリックのお父さまが、表情をこわばらせる。それを聞いたアーサーさんがそっと言った。