第76章 準備
それでもこの本を渡してくれたのは、私が使ってしまったということもあるだろうが、私のことを考えてくれたからだろう。
『わかってるわ...』
「僕も意地悪で言ってるわけじゃないんだ。ユウミのことを心配してるんだよ」
本当に心配そうな顔のトム。それを見て私は、親しい人以外には使わないことを約束した。
『ねぇ、トム。この呪文はね。マーレイ家で一番若い人が力があるんだって。だから、新しい命が宿ったらその子が一番力を持つことになるの...』
トムは黙ったまま、私の方を見ている。
『...不思議に思ったの。お父さまは、シリウスやリーマス、それにワームテールと仲が良かったのならハリーのお父さまとも仲が良かったと思うわ。それならどうしてこの呪文を使わなかったのかって。お父さまは、副作用を気にしたのかしらって。でも、わかったの。ハリーの両親が亡くなった時、私はもう産まれていたわ。だから、使いたくても使えなかったんだって』
トムは私に近寄ってきて、私のことを優しく抱き締めた。
「ポッターの両親が死んだのは君のせいじゃない。当たり前だろう?僕が悪いんだ。ポッターの両親を殺したのは、僕の未来なんだから。だから、ユウミが自分を責める必要はないよ」
まさに思っていたことを言われて、私はトムの背中に手を回す。
『ありがとう、トム。私、トムがいなかったら、どうなっていたかわからないわ』
落ち着いたため離れた私は、本当にそう思った。前世の記憶があるゆえに悩むこともあるが、これを相談することは難しい。だが、トムは全てを受け入れて支えてくれる。それがどんなに助かることなのか、今すごく実感したのだ。
トムは私にとっては頼りになる兄のような存在。でも、ジニーやハリーなど他の人からしたら違う。頼っているのはダメなことかもしれないが、私はトムが好きでとても大切だ。少し罪悪感を感じながらもどうすることも出来なかった。
「お嬢様!」
『あら、ディニー。どうしたの?』
7月の末。部屋でくつろいでいた私のところに屋敷しもべ妖精のディニーが現れた。
「ご主人様がお呼びでございます!」
『今日は、お客様がいらっしゃるって言ってなかった?』
「お客様はいらしてます!」
どうして呼ばれたのかと不思議に思いながらも、ディニーにお礼を言い、下に行く。