第67章 バックビークの運命
「僕たちだよ。透明マントを被ってるんだ。中に入れて。そしたらマントを脱ぐから」
「来ちゃなんねえだろうが!」
ハグリッドはそう囁きながらも、一歩下がった。私達は中にはいる。ハグリッドは急いで戸を閉め、ハリーは透明マントを脱いだ。ハグリッドは泣いてはなかったし、4人の誰にも抱きついても来なかった。
自分がいったいどこに居るのか、どうしたら良いのか、まったく意識がない様子だ。茫然自失のハグリッドを見るのは、涙を見るより辛いことだった。私は、罪悪感にさいなまれる。私がもう少し上手くドラコを庇えたら...。でも、バックビークがいないとシリウスが困る。
「茶、飲むか?」
ヤカンのほうに伸びたハグリッドの大きな手が、ブルブル震えていた。
「ハグリッド、バックビークはどこなの?」
ハーマイオニーがためらいがちに尋ねる。
「俺...俺、あいつを外に出してやった」
そう言ったハグリッドは、ミルクを容器に注ごうとして、テーブルいっぱいに溢した。
「俺のかぼちゃ畑に、繋いでやった。木やなんか見たほうがいいだろうし...新鮮な空気も吸わせて...そのあとで...」
ハグリッドの手が激しく震え、持っていたミルク入れが手から滑り落ち、粉々になって床に飛び散る。
「私がやるわ、ハグリッド」
ハーマイオニーが急いで駆け寄った。
「戸棚にもう一つある」
そう言ったハグリッドは、座り込んで袖で額を拭う。
『ハーマイオニー、手伝うわ』
「ありがとう」
ハーマイオニーと一緒に床を綺麗に拭く。
「ハグリッド。誰か、何でもいいから、出来ることはないの?」
ハリーはハグリッドと並んで腰掛け、語気を強めて尋ねた。
「ダンブルドア...ダンブルドアは、努力なさった。だけんど、委員会の決定を覆す力はお持ちじゃねえ。ダンブルドアは、連中にバックビークは問題ないって言いなさった...だけんど、連中は怖気づいて...ルシウス・マルフォイが、どんなやつか知ってるだろう...連中を脅したんだ、そうなんだ...そんで、処刑人のマクネアは、マルフォイの昔っからの仲間だし...だけんど、あっという間にスッパリいく...俺が傍に付いててやるし...」
ハグリッドは、ゴクリと唾を飲み込んだ。わずかの望み、慰めのかけらを求めるかのように、ハグリッドの目が小屋のあちこちを虚ろにさまよった。