第10章 襲来
「ようやく会えたね…コヨミ」
『(何で名前…)』
扉の陰から出てきたのは1人の男性
『…っ!!!!!』
そこにいたのは紛れもない兄の姿
『(何で院内に…!!関係者以外は立ち入り禁止なのに…)』
「元気そうでよかった…俺のコヨミ…」
『ど…どちら様ですか』
ここは若葉を貫き通さなきゃ
『人違いじゃないですか?僕は若葉です。それにここは関係者以外立ち入り禁止で…』
「何言ってるんだ…?コヨミ」
『…っ』
ここで怯んじゃいけない…
「コヨミ…ずっと会いたかったんだぞ…?」
兄は普段はカメラマンの仕事をしている
カメラマンをしているときの姿は普通の好青年
しかし家やコヨミの前ではその姿は消える
まったくの真逆の性格―――
「コヨミ…」
『今はまだ騒ぎになっていないので大丈夫だと思いますよ。ここを出てすぐ右に外へ出る扉があるので…』
「コヨミ」
ドキリと心臓が跳ねる
「コヨミ…」
『いい加減にしてください…僕は若葉で…』
「脱げ」
『え…?』
「そんなに違うと言うなら脱げ…俺がつけた傷があるはずだ…」
『…っ』
あれは…私が小学生に入った頃の出来事…
梅雨だった
私の仕事や学校はお休み、兄も仕事はなくて家にいた
部屋で歌の練習をしていたときに部屋に兄が入ってきた
それは仕事場で見る兄とは雰囲気がまるで違った
兄は何も言わずにコヨミの腕を掴んで馬の乗りになった
抵抗するも力に敵うことはなく、腕を掴まれる
そして暴れていると兄の胸ポケットからカッターナイフが私の真横に落ちた
その途端、兄の眼が変わった
腕の傷はそのときにつけられたもの
玄関のチャイムが鳴って正気に戻った兄はそのまま部屋を出て行った
しかし私の血を見た兄の顔を今でも覚えている