第8章 わがままな想い
息を吸い込もうとするほどに
上手く空気が吸い込めなくて
苦しくなって
咄嗟にいつものように
鞄に手を伸ばしても
いつもならすぐ見つかるはずの
"帽子"はどこにも見当たらなくて
鞄の中身を床にばらまき
必死に帽子を探していると
「何探してんの…?」
そんな声と一緒に
バスルームから出てきた
亮ちゃんは
頭からポタポタと水を滴らせながら
不思議そうに私を見つめる…
「帽子…
鞄に入れてた帽子が無いの…
あれがなきゃだめなのに…
亮ちゃん知らないよね…?」
そう言って
必死に鞄の中を探す私に
ゆっくりと近付くと
「あの帽子やったら昨日…
燃えるごみに出しといたぞ…?」
そんな亮ちゃんの言葉に
驚いて顔を上げ
「何で…あれは私の大切な…」
そう言いかけた私の唇を
強引にキスで塞ぐ…
突然塞がれた唇に訳がわからずに
放心状態の私の耳元で
「あの帽子…
すばるくんのやろ…?
前にお気に入りやって
見せてもらったことあったから
すぐ解った…
あんなん必要ないやろ…?
あんなもんがあるから
いつまでたってもお前は…」
そう独り言のように
囁かれる声に
ずっと押さえ込んできた感情が
一気に体から溢れだす…
「いや……いやだ……
私は…ごめんなさい……!!」
そう叫んで
亮ちゃんの腕を振り払い
走り出した私の背中に
「みち……!」
必死に私の名前を呼ぶ
亮ちゃんの声が聞こえた……