第8章 わがままな想い
突然目の前に現れたすばるくんに驚いて
その場に立ち尽くす私に
「そこ…通りたいんやけど…?」
なんてすばるくんは
顔色一つ変えずぽつりと呟く…
そんなすばるくんの淡々とした言葉に
「あ…あぁ…?
邪魔ですよね…すいません…」
そう言って慌てて足を踏み出すと
ひねった右足にビリビリと痛みが走って
ふにゃりと前のめりに体が
崩れそうになる…
でも次の瞬間
こけそうになる私の体を
すばるくんは咄嗟に手を伸ばし
支えてくれて…
何も言わず
少し強引に私を階段に座らせると
履いていた靴を脱がせて
「あほかお前…
足…腫れてるやんか…」
そう言って
私の右足にすばるくんの手が触れる…
不器用な言葉も
触れる手の温かさも
すべてがすごく
懐かしくて
止まったはずの涙が
また零れ落ちて
そんな私に
すばるくんは驚いたように顔を上げ
「何やねん…
泣くほど痛いんか…?」
そう言って
心配そうに顔を見つめてくる…
そして…
「お前…唇も切れてるやんか…
どう転んだらそんなケガ出来んの…?」
なんて顔を近付け
遠慮気味に
私の唇に触れる指先に
溢れだした気持ちが暴走して
驚いたように目を見開くすばるくんの顔
に顔を近付けキスをすると…
少しの間を開け
すばるくんは私の髪に指を絡ませ
そのキスに応えてくれる…
"大好きだよ?"
そう伝えられたら
どんなに良いだろう…
そんなことを
触れあう唇に溺れながら
考えていると…
"みち…?"
私の探す亮ちゃんの声が
遠くから聞こえてくる…
「ごめんなさい…」
そう言って
立ち上がった私の手を
すばるくんは掴んで
私の目をまっすぐに見つめて
「行くな……」
そう小さく呟いた……