第8章 わがままな想い
みちside
亮ちゃんの付き人を始めて
1ヶ月がたって
少しづつ仕事にも
なれてきた頃…
いつものように
亮ちゃんと一緒に楽屋に入り
いつものように
スタッフさんに呼ばれ
みんなが楽屋を出ていく姿を
ぼんやりと見ていると
一番最後に部屋を出ていったすばるくんと
扉が閉まるまでの
たった数秒の時間
目と目が合う…
何も言えなくても
何も言われなくても
そのたった数秒で
すばるくんと一緒に
泣いたり笑ったりしながら
二人で過ごした時間が蘇ってきて
封印したはずの
"好き"の気持ちが
溢れだして
痛いほどに唇を噛み締めても
一人になった部屋の中
涙が零れ落ちてしまう…
噛み締めた唇から
じわりと滲んだ血の味が
口の中に広がっていくのを感じながら…
ポタポタと落ち続ける涙を
ごしごしと手で拭っていると
廊下から足音が聞こえてきて
部屋の前でピタリと音を止める
ガチャンと音を立て
開いた扉から現れたのは
どうやら忘れ物を取りに来たらしい
章ちゃんで…
部屋の中に入ると
鞄の中をごそごそと探ると
"やっぱりここにあったわ(笑)"
なんて笑顔で
私の方を振り返る…
でも章ちゃんは次の瞬間
不思議そうに私の顔をまじまじと見つめると
「あれ…みちちゃん…何かあったん…?
目真っ赤やけど…もしかして泣いてた?」
なんて顔から笑顔を消し
心配そうに私の顔を見つめてくる
だから慌てて
そんな章ちゃんの心配そうな視線に
くるりと背中を向けると
「すいません…
今日は先に帰るって
亮ちゃんに伝えてください!!」
そう叫んで
楽屋の中から
逃げるように飛び出した…