第5章 失う覚悟……
亮ちゃんの顔が目の前に近付いて
どくんどくんと心臓が
大騒ぎを始めて…
ぎゅっと目を閉じた瞬間…
亮ちゃんのスマホが
タイミング良く大きな音を立て
きつく閉じていた目を開くと
亮ちゃんは焦ったように
スマホをポケットから取りだし
私から離れる…
「うん…解った…
今から行くわ……」
そんな言葉と一緒に
電話を切った亮ちゃんは
もう一度私を抱きしめて
「後でまた戻ってくるから…待っといて?
絶対に戻ってくるから…」
そう言うと
私の返事も聞かず
走り出していく…
部屋の中に戻ったあとも
胸がどくんどくんと
大きな音を立て続ける…
亮ちゃんに抱きしめられた時の
腕の感触や匂いが
まだ消えずに残っている…
「やったー!!
亮ちゃんが…会いに来てくれた(笑)」
嬉しくてそう叫んで
ごろりとソファーに寝転がると
かさりと手に何かが触れた感触がして
拾い上げると…
それは…
「お前はすぐ泣くから…
泣きたくなったらこれ握っとけ…(笑)」
そう言って笑いながらすばるくんが
置いていった帽子で…
そっと胸に抱きしめると
すばるくんの匂いがする…
「ごめんね……すばるくん…
やっぱり私は………」
そう小さな声で呟いて私は
すばるくんが置いていった帽子を
クローゼットの奥にそっと
しまいこんだ……