rain of conflict【黒バス/ナッシュ】
第1章 rain of conflict
それはまるで、顔の下半分を覆うように。
名無しはナッシュの服をこれでもかと身近に寄せた。
息をするだけで懐かしささえ感じるような彼の面影を含ませる匂いに、どうしても気持ちを動かされてしまった瞬間だった。
その匂いにぞくぞくとして、目を閉じて浮かべたのは、自分の上でナッシュの髪が激しく揺れている様子だ。
明るみの目立つその毛色がゆらゆらと、目には見えない性を煽る物質を撒き散らし、組み敷いた名無しをとことんぬかるみに嵌めてゆく。
脳裏でそんな光景が過ぎるのは、想像していたという、逃れようのない事実だった。
淡く吐息を漏らし、彼女が自分の下半身に向け片方の手をやろうとしたところで、名無しは起きたまま夢から醒まされた。
無論、ナッシュ本人によって――。
「こういう場合は・・・どうすりゃ正解だ?自分の私物に嫉妬でもすりゃあいいのか?フフ・・・ッ」
「・・・っ・・」
「ソファに置いてたやつか・・そのままにしちまってたな。・・・・おまえが興味を持ってんのは、オレの身体だけだと思ってたぜ」
「!そんな・・・ッ、・・・ん・・」
「ん・・――・・・。普通そう思うだろうよ・・オレだっておまえのことは、この身体にしか興味ねえよ」
「っ・・・・・」
「フッ・・・冗談だ。キョトンとしやがって」
別に自分のことを、姫やヒロイン等と言うような言葉で比喩するつもりもない。
けれど、たとえば創作でその立ち位置にある人物が、夢から醒めた現実がまるで悪夢だったときに抱く気持ちが、その瞬間一気に理解出来たように感じた。
渇いた喉に生唾が通り、咽頭がむず痒い。