第1章 屋上の噂。
「なに、お前ら」
全員の顔を一瞥した目の前の彼は今すぐにでも出ていけと言わんばかりの表情を浮かべている。背後から彼の言葉に答えるかのように「噂を聞いて…」と聞こえた。その言葉に彼の顔が一層険しくなる。思わず小さな悲鳴も上がる。
がりがりと後頭部を掻き毟った彼は立ち上がると「帰れ」と吐き捨てた。所詮噂。彼もこの噂の被害者なんだろうか。動かない俺らを見た彼が威圧するように鋭い視線をこちらに向けると背後の二人は逃げ出すように階段を駆け下りて行った。
「…お前も帰れよ」
再び紫煙を薫らせた彼から視線を逸らせずにいると、彼は俺を見下ろしてそう言った。視線で人を殺せそうな彼だけど、目を伏せたときの長い睫毛や綺麗な立ち姿、華奢な体付きがそれに反して嫌に煽情的だった。
立ち上がると彼は思ってた以上に小柄だった。自分との身長差に思わず呆然と見下ろすと見上げてくる彼が不機嫌そうに舌打ちをした。見下ろした彼のワイシャツから覗く鎖骨がとても綺麗だった。
「お名前を聞いてもいいですか」
「どうせ噂で知ってんだろ」
「ミツさん」
「あれ、ただの噂だから。本気にしてんなら悪かったな」
「でも名前は合ってるんですね」
「…」
また舌打ちが聞こえた。
おわり