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【BL】創作跡地。

第3章 狐の声。



「あ、あだ名おはよー!」


 朝、教室に入ると望月が席から立ち上がり近付いてきた。慣れた手つきで腕を絡ませすり寄ってくる望月の体をぐいと押す。ぶぅっと頬を膨らませた望月に小さく笑った。


「ちょっと、望月がくっ付いたら俺の可愛さを際立っちゃうじゃん」

「なっ、あだ名可愛いから否定できないのむかつく」


 望月とじゃれあいながら席につくといろんな方向から声をかけられる。自慢じゃないけど俺は人気がある。クラスでもそうだけど、学校中で俺のことを知らない人はほとんどいないくらいには。
 朝から騒がしいほどに盛り上がっている中、担任が教室に入ってきて各々が自分の席に戻った。普段ざわざわと囁き声が飛び交うホームルームも、昨日噂されていた転校生に興味があるのか心なしかいつもより静かな気がする。いつも通りに出欠を取り予定やらなんやらを気怠そうに話した担任は、一度、一瞬だけ、教室の外をちらりと見た。クラス中がそれに反応し、一斉にそわそわした雰囲気で教室が満たされる。その雰囲気を感じ取った担任は面倒臭そうに表情を歪め、しかし気にすることなく教室の外へと出て行った。そして次に教室に入ってきたときにはその後ろには噂の。


「あー、お前らも知ってると思うけど」


 担任が話し出したのにも関わらずクラス中は転校生に夢中になっていた。ざわざわと至るところで転校生を評価するような言葉が飛び交う。そのざわめきの中でも慣れている担任は話すのをやめず、転校生へと挨拶するように声をかけた。


「…狐塚 肇です。よろしく」


 彼が言ったのはその一言だけだった。次の言葉はなく、数秒の沈黙が教室に流れた。
 彼の名前に違和感を覚えた。違和感というより、既視感。それと、彼の声をどこかで聞いたことがある気がする。記憶を辿るように質問攻めにあっている彼の顔をじっと見た。


「---っ!」


 彼の瞳がゆっくりと俺を捉えた。思わず肩が跳ねる。柔らかいようで鋭い瞳が俺を捉えて離さない。俺もまた彼から目が離せなくなっていた。降りかかる質問へは一切答えない彼に不満を覚えたのか、いつしか質問の声は止み、それに気付いた担任が彼を席へと誘導する。窓際からひとつ内側の、後ろからふたつ前。その俺の席の後ろ。




おわり
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