第49章 好きだよ
燭台切「そっか。怖いのなら……仕方ないね」
そう言って優しく頬を撫でてくれた燭台切さんは、少し寂しそうに笑った。
こんなにも優しくて温かな人の気持ちを素直に受け止めることもできない自分の不甲斐なさが恥ずかしくて嫌になる。
嘘を吐いて一時的に燭台切さんを受け入れたとしてもそれは幸せとは言えない。より、いっそう彼を悲しませる結果に繋がるとわかりきっていたので首を縦に振らなかったことには後悔はしていない。
けど、彼を悲しませてしまったことに私は心を痛めた。
自分が選んだことなのだ。私が心を痛めるだなんておかしな話だ。
自分が傷つくのは慣れていたが、目の前で大切な人たちが傷つくのを見るのはつらいものがあり卑怯だと思われるのを承知で私はこの場から離れるために立ち上がった。
燭台切「困らせてごめんね」
「っ……」
小さく呟いた言葉にズキッと胸が痛んだ。
早くこの場から離れたくて襖を開けるとそこには長谷部がいた。
驚いたようにこちらを見下ろす瞳に一瞬あの人の姿が過り目を伏せる。
長谷部「あ、主……どうなかされたのですか?」
「ごめん長谷部。それは燭台切さんにあげて……私は少し頭を冷やしてくる」
そう告げてその場から小走りで逃げると背後から私を呼ぶ声が聞こえたが聞こえないフリをして少しでも遠く、誰にも見つからないところを探すのだった。