第14章 初体験 ☆
こういうときこそ自分が危険だと感じたなら普通は逃げ出したくなるものだと前に聞いたことがあった。
現在の私は先程の余韻などから動くこともできずにいる。
石切丸さんは、怖い人でもなければ危ない人……でもない、と思う。
でも今は逃げた方がいいと思うのはなぜなのだろう。
石切丸「……主、昨夜言ったことを忘れてしまったのかな?」
昨夜……まったくもって覚えてない。
それに今は思い出せるほど余裕もないので、諦めたようにコクりと頷く。
本当のところ、なにも覚えてないので忘れたも同じだと思って頷いたわけだが石切丸さんは怒るわけでも呆れるわけでもなく小さく笑って頭を撫でてくれた。
石切丸「さて……主もそろそろ限界のようだからね……」
「ふ、ぇ……」
目の前で服……狩衣を脱ぎ始める姿に、期待などを感じてしまいそうにもなるが忘れてはいけない。
私は何度も……寸止めをされている。
焦らして、焦らして……そうして私に期待だけさせてから一気に堕とすのだ。
今回だって、そうに決まっている。
信じちゃいけないと思うのに藤色の瞳に見え隠れする獣のような鋭さが私の鼓動を早くさせる。
「い、しきりまるさん……ッ…やだ」
石切丸「……やだ、か。ずいぶんと機嫌を損ねてしまったようだね?」
「しら、ないっ……」
石切丸「本当は、君自ら私を求めに来てほしかったところだけど……放っておいたら、誰についていくかわかったものじゃないからね……まさか、三日月に尻尾を振るなんてね」
「っ……そんなことしてなっ……」
尻尾を振る。
そんなことしてないのにそう思われるのが嫌で否定しようと口を開くがその口は彼の唇によって塞がれた。
この人のこういうところが私はすきにはなれない。
人の感情を弄ぶように期待だけさせて離れていく……そんなところが嫌だ。
すぐに離れようと彼の胸板を強く押し返すが逆に腕を捕まれ止められてしまう。
何度も角度を変えて唇を重ねられると息苦しくなってまるで、ふわふわと宙に浮いているようにすら思えてきたところでようやく離してもらえた。