第1章 花との出会い
それから、コヨネは彼に教わった技術を活かしてのらりくらりと生きている。傭兵稼業は向いているので客が途切れたことはない。
感情が希薄でいい加減な性格で、目的もなくただなんとなく生きているだけの彼女は、誰とつるむこともなくいつも一人だった。
いつも心は静かに凪いでいて、乱れたことなどなかった。
きっとろくな死に方はしないのだろうと達観していたし、それでいいと思っていた。ろくでなしの人殺しにはそれが相応しい。
そう、思っていた。
だというのに、今、コヨネを占めるのは強い感動だった。生まれて初めて心を揺さぶられた。
それは何度となく見てきたはずのものだった。
人の心が無残に砕け散るさま。
あるときは裏切りで、あるときは拷問で、またあるときは愛情で。
心が死に絶える様なんて、いくらだって見てきたはずなのに。
怒号と悲鳴が響き渡る、この世の終わりのような場所だった。
アルバールの東端。ボルテチノアと真っ先にぶつかる羽目になった、運のない領土だった。
攻め込まれ、踏みにじられ、今まさに終わりを迎えようとしている。
領土の名はリブロン。肥沃な大地に恵まれた、アルバール有数の農業地域。
占領しない理由はなかった。
アルバールとてみすみすボルテチノアに渡す気はなく、両国は激しい戦闘を繰り広げた。
リブロンは焼かれ、壊され、あっという間に変わり果てた姿へと変貌した。
コヨネはそんな戦いのさなか、一足先に宮殿へ向かい、領主一家を探していた。
来たる戦いへ向け彼女は一か月ほど前から使用人として宮殿へ潜入しており、領主一家の顔も把握していたので、確保して連れてくるよう言われていたのだ。
そして。
炎に彩られる宮殿で、コヨネは美しい花を見た。