第1章 花との出会い
人よりも秀でた才能があった。
それはお天道様に誇れるような誉められたものではなかったけれど、才能といえば才能だった。
他者を騙したり殺したりするのが、平均以上に上手かった。たまたま、そんな風に生まれついた。
そしてたまたま、その才能を見出だされ伸ばされたので、特に抗うこともなくそのまま生きてきた。
向いているから。
コヨネが今の仕事をしている理由は、その程度のものだった。
世界は争いで構成されている。コヨネの現在の職場はまさに戦争の真っ最中だった。
今が盛りと世界へ版図を広げる騎馬民族国家・ボルテチノアと、彼らの次の標的とされた麗しい騎士の帝国・アルバール。
かつて東の草原で遊牧をして暮らしていた人々がまさか、誇り高い騎士へ刃を届かせる日が来るなんて誰が想像しただろう。
申し分のない国力と歴史を抱えるアルバール。王と貴族が国政を担う国。姫と騎士と薔薇と葡萄酒。そんなこんなで出来ている優雅で機知に富んだ国。
まさか蛮族とせせら笑っていた東の馬飼い共に恐怖を覚える日が来るとは、彼らは夢にも思っていなかった。
コヨネの仕事は、一刻でも早く彼らのその細く白い首が、野蛮な浅黒い手によって残らず刈り取られるよう、尽力することだった。
情報を盗み、邪魔者は葬り、利用出来る者は籠絡した。
主を選ばない傭兵まがいをしている彼女は、今はボルテチノアのとあるお偉いさんに雇われていた。
生まれ故郷はもうよく思い出せない。ある日焼かれてなくなった。
そして生き残った彼女を、ある傭兵が拾ったのだ。
才能を見出だし、伸ばし、共に仕事をこなすようになって、そんなある日捨てられた。理由はわからないが、なにせ気紛れな男だったので、おおかた飽きたのだろうとコヨネは予想している。
コヨネという名も、彼に付けられたものだった。悲しいとは思わなかった。