第1章 rain of repose
知らないことは、これから知っていけばいい。
自分が、彼を酷い男としか思えなかったときがあったように。
そこからまた違う彼を知ればいいだけなのだから――。
「・・・ちゅ」
「―――・・・」
覗いていただけだったナッシュの携帯を、ゆっくりと手に取り持ちあげる。
名無しは、止まっていた動画アプリを閉じると、すぐに彼の手の付近へとその携帯を置き戻した。
一言呟いたのは、もしかしたら、口にしたのは初めてかもしれなかった言葉。
このとき結局ナッシュの寝顔を確かめることは、その体勢や向きの都合ゆえ叶わなかった。
だからせめてと、最大限覗き込んだ彼女にできたのは、ピアスの通ったナッシュの耳殻に軽く唇を宛がい、キスをすることだけだった。
再びシーツの中に身体を潜める・・・。
今度はナッシュの背に寄り添うようにして、名無しはそっと目を閉じた――。
rain of repose