第2章 rain of reposeⅡ
まだまだ沢山あった、ナッシュのわからないこと。
想像もつかないような苦節を辿り、辛酸を舐めさせられ、それらが今の彼を築いていたのだとしたら――。
唯一、名無しが無知なりに自信があったのは、どんなに非道で慈悲の一文字も持っていなくとも、彼は本当に純粋に、ボールを追いかけるのが好きなのだろうということ。
握り締めていた携帯を見ていれば、嫌というほど伝わっていたから・・・。
過去を思い出し、彼なりのもしも感傷に浸っていたのならば、それなら名無しは今不条理に犯されていても、悪いのは自分なのだと理解も痛感もできた。
だから優しい言葉を並べて、その事実をなかったことにしたという事実を、ナッシュに囁いてみせた。
「ん、・・・ハァ・・、ナッシュ・・・?・・・!ひゃ、・・ん――」
「――・・・っぐ・・、――ぁ・・・、ア・・ッ―――」
気持ちは伝わったのか、陰部の鈍い痛みが、一瞬にして快感だけに侵食され、嬌声が自然と溢れてゆく。
その大きくなった名無しの声のトーンをくぐもらせたのは、散々激昂に満ちた声音を吐いていた筈のナッシュから、不意打ちで重ねられた彼の唇だった。
膣の中で俄かに感じる、強かさの加わった太ましげな彼の欲望。
絶頂を目前にキスをされたことで、彼自身、ぶつけるべきでないと自覚していたであろう、やり場のない怒り。
それが二陣を吐き出したと同時に静かにおさまったことを察すると、名無しは黙って、その口吸いを甘んじて受け入れ、淫猥に舌を絡めた。
「、・・・ナッ・・」
「――・・・忘れろ・・。ん・・・」
「!・・・、っん、ちゅ・・・、ン・・」
羨望、悋気、そして想いが強いからこそだろう。
伝わるもどかしさ・・・その夜名無しは、朝を迎えてもナッシュに触れられるまで、自身も携帯を出すことは一切なかった。
とてもとても小さく紡がれたナッシュの言葉。
もしも目の前に姿かたちがあれば、触れると壊れてしまうのではないかと思わせるほど、それは名無しには繊細に聞こえていた――。
rain of reposeⅡ