第1章 【雑賀孫市】雑賀の郷の夏祭り
「ん…?どうした?」
「あ…いえ……なんていうか……孫市さんとの距離が縮まったような気がして……その、嬉しいです」
くすり、と小さな笑いが頭の上から降ってくる。
「可愛いことを言ってくれるねぇ」
孫市の大きな手が千草の頭をそっと撫でた。
(……あったかいな)
背中から、そして頭からも、孫市のぬくもりが伝わってくる。
「来年は……一緒にお祭り、回りましょうね」
「………っ」
孫市の身体がぴくりと震え、動揺したように感じた。
思わず千草は身をよじって振り返る。
「………孫市さん?」
「千草……そりゃあ……」
心なしか顔を赤くする孫市に首を傾げてみせたが、千草は自分が言った言葉の意味にはっとする。
(あ………)
「……この先ずっと…俺のそばにいてくれるってことかい?」
「あ……それは……えっと」
言いよどむ千草の口は、孫市の唇で塞がれた。
「…んんっ」
僅かな時間であっという間に舌が絡め取られる。
水音を立てて唇が離れ、掠れた孫市の声が落とされる。
「………元の世界に、帰したくなくなるぞ」
「………っ、孫市さ…」
千草の唇は再び塞がれ、縁側にそっと押し倒される。
(……ん…孫市さん…)
とめどなく降り注ぐ孫市の愛撫に、千草は目を閉じて委ねるのだった。
end...