第8章 夏の暑さとワタシ
更衣室前まで来たものの
誰とも、もちろんオバケとも
遭遇することはなかった。
「ほら、気のせいだろ?」
「だって、さっきはホントに居たんだもん……」
消え入りそうな声でヒカリが言う。
俺はヒカリの頭をわしゃわしゃっとした。
「うわっ、ちょっと!!」
「きっとオバケもお前の可愛さに寄って来たんだよ♪」
「なにそれ! 信じて無いでしょ!?」
「いや、さすがにさっきのヒカリを見たらマジかなとは思ったけど……今は大丈夫なんだから安心しろよ、俺がついてるから」
ヒカリにキスをした。
触れるだけ。
じゃないと抑えきれない。
「鉄朗、着替えるの……待ってて?」
「おう、終わったら声掛けろ、外で待ってるから」
更衣室を出ようとする俺の裾が引かれる。
「こ、怖いから……中、居て……?」
マジか、これ、マジか……?
俺を見つめ
懇願してくるヒカリ。
瞳にはうっすらと涙の膜が出来ている。
「あっち向いてるから、早くしろ……」
「うん!」
ヒカリは急いで着替えを始めた。
俺は……
自分の煩悩との戦いを始めた。