第16章 わからない
「・・・・・・」
「・・・・・・」
部屋の中を沈黙が支配した。ヒカリはじっと俺を見上げたまま、目を逸らさない。その瞳はまだ涙で濡れている。
『好き』、ヒカリの言ったその言葉の意味が、友達同士とか、先輩への憧れとか、そんなものじゃないことくらい俺にもわかった。
「・・・・・・わりぃ」
「・・・・・・」
・・・だけど俺にはヒカリに返してやる言葉がこれしか見つからない。
「・・・・・・わりぃ」
もう一度はっきりとそう言った。
「・・・あ!はい!だ、大丈夫です!!ぜ、全然問題ないですよ!!」
その瞬間、さっきまで泣いていたのが嘘のように、ヒカリは笑顔でそう答えた。
・・・だけど俺は知ってる。これはヒカリの本当の笑顔じゃない。
「・・・・・・」
「ホント、迷惑ですよね!私みたいなのに言われたって、ふざけんなって感じですよね!」
「あ、いや・・・」
・・・違う。迷惑だともふざけんなとも思っていない。
「忘れて下さい!きれいさっぱり!あはは!」
・・・なんでだ、なんでそんな顔して笑うんだ。お前のそんな顔なんて見たくねえのに。
「それじゃあ私、帰ります!お互い大会に向けて頑張りましょうね!うちもみんな頑張ってますから、負けませんよ!」
「・・・・・・」
そう言いながらヒカリは俺に背を向ける。その小さく華奢な背中が少し震えている。だけど、俺にはかけてやる言葉が見つからない。
「それじゃあ・・・お大事にして下さい・・・っ!!」
最後、少しだけ振り返ったヒカリの目にはまた新しい涙が溢れてきていた。
音を立ててドアが閉まった。