第13章 帰りたくない
「・・・ヒカリ」
「はい?」
「・・・あー・・・」
「どうかしましたか?」
急に宗介さんに名前を呼ばれた。宗介さんは何か考えるような表情をして、なぜだかとても言いづらそうだ。どうしちゃったんだろう?
「あれだ・・・ヒカリ、手、出せ」
「へ?手?」
手を出せ、って一体どういうことだろう。
「・・・いいから出せ、両方」
「は、はい・・・ふわっ!」
宗介さんは有無を言わせない言い方で、私は恐る恐る両手を宗介さんの方に差し出した。すぐに手が暖かくなったと思ったら、私の両手は宗介さんの両手にすっぽりと包み込まれていた。
「・・・・・・」
「・・・あ、あの・・・そ、宗介さん?」
宗介さんは私の手を握ったまま離してくれない。どこかわからないところを見つめたまま何も言わないし、どうしたんだろう。
「・・・・・・あー、いや、手相でも見てやろうかと思って」
「え、宗介さん、手相なんて見れるんですか?」
「・・・・・・あー・・・食欲線がすげえ長い・・・よく食うだろ、お前」
宗介さんは私の手をとったまま、今度は手の平をじっと見ている。そして、なんだかものすごく適当なことを言い出した。
「そ、それ、もう知ってることですよね?それに食欲線なんて聞いたことないですよ」
「・・・生命線が長え・・・ような気がする・・・よかったな、長生きできるぞ、お前」
宗介さんの適当ぶりになんだかまた笑えてきてしまった。
「あはは!何ですか、それ・・・・・・あ、ほら、見て下さい。宗介さんの手、やっぱりすごく大きいですね。私の手とこんなに違う」
「ああ」
宗介さんの手の平と私の手の平を合わせる。当たり前だけど宗介さんの手と私の手、全然違う。私の手よりもずっと大きくてごつごつしてて、男の人の手、って感じだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少し見上げると宗介さんと目が合った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
宗介さんは私から目を逸らさない。私も宗介さんから目を逸らすことができない。宗介さんのエメラルドグリーンの瞳が少しだけ揺れると、ゆっくりと私に近付いて・・・