第13章 帰りたくない
でも、当たり前のことだけど、楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。
・・・どうして家は駅からこんなに近いんだろう。
「・・・ここだったよな、お前んち」
「・・・あ、はい、そうです」
・・・まだ帰りたくない。まだ宗介さんといっしょにいたい。
「そんじゃな・・・まあ、お前も頑張れよ」
「あ、や・・・あ、あのっ!!」
くるっと宗介さんが方向転換しようとした時、思わず私は宗介さんの服の裾を掴んでしまっていた。
「・・・どうした?」
「ご、ごめんなさい!・・・あ、あの・・・えっと・・・」
宗介さんが少し驚いたような声を出している。慌てて手を離したけど、でもやっぱりまだ帰りたくない・・・だってもう宗介さんに会えなくなっちゃう。さっきはまたご飯食べに行こうって言ってくれたけど、それもいつかわからないし・・・何より・・・今、宗介さんの側にいたい・・・離れたくない・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
どうしよう、宗介さん何も言ってくれないし、きっと困ってる。私も何を言っていいのかわからない。『まだいっしょにいたい、帰りたくない』なんて、そんなこと、宗介さんにとって私は何でもないのに言えない・・・どうしよう、なんだか涙が出てきそう・・・・・・
「・・・あそこ行くか、タコの公園」
「・・・へ?」
・・・聞き間違いかと思った。
「お前もつき合え。行くぞ」
でも違った。宗介さんはちゃんと私の目を見て言ってくれた。私の気持ち、宗介さんに伝わったんだろうか。嬉しくてまた泣きそうになる。だけど・・・
「は、はい!あ、あの、でも・・・」
「なんだ?」
「公園、逆方向です・・・」
「・・・」
宗介さんが歩き出そうとした方向は、公園とはまったくの逆方向だった。