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いちご☆恋模様

第8章 消えない声


「おい・・・なんか『年中閉店セール!』って看板が出てる店の前にいるんだが・・・」
『えぇぇ?!!と、遠ざかっちゃいましたよ、また!』
「てか『年中閉店セール』ってなんだよ・・・」


「・・・おい、行き止まりだ」
『え?!ほ、方向転換です!360度!』
「・・・また行き止まりだ」
『え、あ!ま、間違えました、180度です!』
「ははっ・・・おう」



「・・・ここを右、でいいんだな・・・おお、やっとさっきの駅が見えてきた」
『や、やっと、着きましたね・・・』

散々行ったり来たりを繰り返した後、俺はようやく駅にたどり着くことができた。俺も疲れていたが、電話で説明するヒカリの声にも疲れが滲んでいた。

「長い間付きあわせて悪かったな」
『いえ、えっと・・・さすがにもう大丈夫ですよね?』
「さすがの俺も見えてたら迷わねえよ」
『・・・そう言ってさっきから散々迷ってたのは誰ですか?』
「・・・」

これには何も言えねえ。思わず沈黙してしまう。

『ぷっ!あはは!でもよかった。無事について』
「ああ、ホントに助かったわ。ありがとな」

耳に響くヒカリの少し高めの声がなぜか心地よかった。
それにしても本当に助かった。最悪、タコと一緒に野宿だった。

『いえ、どういたしまして・・・えっと、あの・・・』
「ん?」

何か言いにくそうなヒカリ。声がどんどん小さくなっていく。

『そ、それじゃ、お、おやすみなさい・・・そ、宗介さん・・・』
「ああ・・・おやすみ、ヒカリ」

電話を通して響くヒカリの声。いつもと少し違って聞こえるヒカリの声。きっとこれもいちごのように赤くなりながら言っているのだろう、そう思うと自然と口元が緩んだ。

電話を切ると、一瞬で俺の周りは静かになった。

ほんの少し・・・あとほんの少しだけ、まだヒカリの声を聞いていたい、そんな気持ちになったのは周りがあまりにも静かだったからだろう。・・・きっとそうだ。
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