第8章 消えない声
「お帰り、宗介。ずいぶん遅かったな。ヒカリんち、遠かったのか?」
「ああ・・・まあ、な。俺、風呂入ってくるわ」
ヒカリに道を教えてもらって、ようやく俺は鮫柄の自分の部屋に着いた。凛は机に向かって明日の練習メニューを考えているところだった。
まさか、迷っていたというのも気恥ずかしいので曖昧に濁して風呂の支度を始めた。
「あのさー、宗介」
「あ?」
「お前って昔からほんっと変わんねえよな」
「は?・・・でかくて目つきが悪いところか?」
「いやそれはそうなんだけどよ・・・」
・・・なんだ?凛が何を言いたいのかまったくわからない。
「なんつーか・・・アプローチ下手?」
「は?」
「わざわざいじめんなよ、ガキかよっていう・・・」
「いや、お前何言ってんだ?わけわかんねえぞ」
じろりと睨みつけてやっても、凛は涼しい顔をしてペンをくるくると回している。
「ま、いいや。そのうちわかんじゃね?ほら、早く風呂入ってこいよ。明日も早いしな」
「・・・ああ」
・・・訳がわからない。だが、凛とは付き合いが長いからか、俺以上に俺のことをわかっている時がある。今もあいつは何か気付いているようだ。だが、適当にはぐらかされてしまっているから何となく腹立たしい。
少しもやもやした気持ちのまま風呂から上がって部屋に戻ると、当の凛はもうぐっすりと眠ってしまっていた。
「なんなんだよ、こいつは・・・」
愚痴りながらベッドの上の段に上がると、ごろりと横になった。
(あいつ・・・もう寝たかな)
きっと、今日長く一緒にいたし、さっきまで電話していたからだろう。俺が眠りにつく前に思い出したのは、なぜかヒカリの照れた顔や怒った顔、そして電話越しに聞こえたヒカリの声だった。