第8章 消えない声
ぼんやりと考えていたら、その当の本人のヒカリからメールが来た。
『こんばんは。今日は色々とありがとうございました。そういえば・・・この前宗介さんが方向音痴だという話を江先輩に聞いたのですが・・・まさかあの距離で迷ったり、なんてことはありませんよね?そろそろ電車を降りるころでしょうか。それでは、おやすみなさい』
「いや、お前本当にエスパーかよ・・・」
まるで俺をどこかから見てるかのようなメールが来た。かなり気まずいが、もうこいつに頼るしかない。メールが来たってことは寝てる心配もなさそうだ。
『も、もしもし?』
「おお・・・俺。宗介だ」
電話をかけると、ヒカリはすぐに電話に出た。少し声が上擦っている気がする。
『あの・・・な、何かご用ですか?』
「いや・・・お前のメールのとおりだ・・・今、お前んちから近い・・・のかもよくわかんねえけど、公園にいる」
『こ、公園?!』
「なんか・・・タコの滑り台がある公園だ」
『え、そ、それって駅と逆方向ですよ?!どうやったら迷えるんですか?!』
・・・腹が立つ。腹が立つが、俺もどうやってここまで迷えるのかがわからない。
「いや、俺にもわかんねえ・・・」
『ぷ!あははははっ!』
「・・・おい、笑うな」
俺が思ったままを言うと、ヒカリは噴き出した。ムッとした声を出したが、不思議と嫌な感じのしない笑い声だった。
『す、すいません、つい・・・あの、私、そこまで近いし行きましょうか?』
「いや、いい。暗いし危ねえ。俺が送っていった意味がなくなるから、このまま電話で教えてくれ」
『え?その・・・本当に大丈夫ですか?』
「・・・努力する」
ヒカリが心底心配そうな声を出す。いや、俺は何だと思われてるんだ。ヒカリの口ぶりからすると、ここは駅からそう遠く離れてないみたいだし、大丈夫だ。きっとすぐにたどり着くはずだ。そう思って俺はベンチから立ち上がった。