第7章 いつもと違う帰り道とやっと気付いた気持ち
(く・・・苦しい・・・)
ガタンガタンと揺れる電車の中、私はスーツ姿のサラリーマンの背中にぎゅうぎゅうに押しつぶされていた。普段は人が少ないこの電車も、ちょうど会社帰りの人が集中する時間にあたってしまったらしく、車内は満員だった。
私の側にいる宗介さんの顔を見上げてみる。他の人達よりも頭ひとつぶんくらい大きい宗介さんは、混雑なんておかまいなしにいつもと同じ涼しい顔をしていた。
(うぅ・・・人の気も知らないで・・・)
こんな時は切実に身長が伸びてほしいと思う。苦しいし、それに色んな人のスーツに染み込んだ臭いでなんだか気分も悪くなってきた・・・
「おい、こっち来い」
「へ?わ、ちょ、ちょっと・・・」
苦しさと気持ち悪さで私が涙目になりかけてた時だった。急に宗介さんが私の腕をつかんできた。宗介さんは、びっくりしてる私の腕をつかんだまま、強引に人の中を通って、ドアのところまで私を連れてきた。
「・・・すんません、ちょっと通して下さい・・・っと・・・これで・・・苦しくねえだろ」
私をドアの方へやると、宗介さんは私を守るようにその前に立ってくれた。
「あ、あの・・・でも・・・これだと、そ、宗介さんが、た、大変なんじゃ・・・」
宗介さんはドアに腕をついて、なるべく私の周りにスペースを作ってくれてる。でも、これだと私は楽になっても宗介さんが色んな人に押されてしまう。
「俺は別に・・・でけえし、大丈夫だ」
「・・・・・・あ、ありがとうございます・・・」
・・・私が苦しそうにしてたの、気付いてくれてたんだ。宗介さんって、意地悪ばかりするけど、実は色々見ててくれてる。映画館の時だって・・・
・・・優しいんだ。宗介さんってすごく優しいんだ。
宗介さんとの距離・・・すごく近い。電車が激しく揺れれば、私の身体と宗介さんの身体がぴったりくっつく。頬が熱いのは変わらない。それでも私はまた少し泣きたいような気持ちになって、すぐ近くにある宗介さんの胸の鼓動を聞いていた。