第23章 地方大会当日朝・伝える
「いたた・・・」
「あ、すんません・・・ヒカリ?」
・・・確かこんなことが前にもあった気がする。ううん、気がする、じゃない。確かにあった。私と宗介さんが初めて出会った時だ。
「大丈夫か?ほら・・・」
「・・・はい、ありがとうございます」
初めて会った時は、『一人で立てる』って言って宗介さんの手を拒んだんだった。でも、今度は違う。私は差し出された宗介さんの手をしっかりと握った。私の手なんてすっぽりと包み込んでしまうぐらい大きな宗介さんの手が、しっかりと握り返してくれた。
「・・・」
「・・・」
宗介さんの手に引っ張られて立ち上がる。ゆっくりと私達の手が離れる。
「・・・どっかのガキかと思ったわ」
「!・・・ガ、ガキじゃないです!・・・し、知ってるくせに・・・」
「はっ・・・そうだな」
宗介さんが少し笑ってるのがわかる。でも赤くなった顔を見られたくなくて、俯いたまま言った。
・・・そうだ、初めて会った時もこんな会話をしたんだった。3ヶ月前のことが一気に私の心に蘇ってくる。
「あの・・・は、走ってぶつかっちゃってごめんなさい・・・」
「おう」
あの時は謝るのをすっかり忘れていた。そのことを思い出して、今度はきちんと頭を下げた。顔を上げると、宗介さんと私の視線が合う。宗介さんは、昨日の真剣な瞳が嘘のように、優しくて穏やかな瞳で私を見下ろしていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「山崎せんぱーい!!ここ、席とってあるっすよーーー!!」
遠くから百太郎くんが宗介さんを呼ぶ声が聞こえてきた。
「おお!今行く・・・・・・そんじゃな、ヒカリ」
「あ、は、はい!」
宗介さんは百太郎くんに返事をすると、私の横を通ってレストランの中へ入って行った。
・・・いけない!大切なことを伝えるのを忘れてた。
「宗介さん!!!」
「・・・」
宗介さんは振り向いてくれた。でも、私が大きな声を出してしまったからか、近くにいた人達も一斉に私に注目した。
「あ、あのっ!私、見てますからっ!!」
周りに見られているのが恥ずかしくて、なんだか中途半端な言い方になってしまった。きちんと宗介さんに伝わっただろうか。
「・・・おう」
・・・でも宗介さんは笑ってくれた。
私の気持ち、伝わったんだって・・・今はそう信じたい。