第22章 地方大会前夜・決意
「あ、あのっ!これ・・・よかったらどうぞ」
私は持っていたコーラを宗介さんに差し出した。宗介さんがすぐ側にいる。身体がかぁっと一気に熱くなって、鼓動が早くなる。手が少しだけ、震える。
「・・・いいのか?お前が買ったんだろ?」
「は、はい!いいんです!・・・どうぞ」
「・・・そんじゃもらうわ。ありがとな・・・これ、金・・・」
「は、はい・・・」
宗介さんがコーラを受け取ってくれる。そして、宗介さんが差し出した小銭を受け取る。手と手が微かに触れ合う。そこからまた熱が広がる。
「・・・・・・」
「・・・そ、それじゃあ失礼します!」
この前の雷の時のお礼、改めて言った方がいいのかなとか、宗介さんに会えた嬉しさとか、気まずさとかで、頭の中がパンクしてしまいそうで、私はそこから逃げ出すように宗介さんに背を向けた。
・・・本当にこんなんじゃ、もう一度告白なんて夢のまた夢だ、って思う。
「ヒカリ」
はっきりと宗介さんの声が私の名前を呼んで、意識していないのに私の足は自然とその場から動けなくなってしまっていた。ゆっくりと宗介さんを振り返る。
「・・・」
「少しだけでいい。俺の話を聞いてくれ」
そう言った宗介さんの顔は、今まで見たことがないくらい真剣なものだった。
「・・・・・・この前のこと」
宗介さんはまだ何も言ってないけど・・・私には『この前のこと』が何を指しているのかがはっきりとわかった。
「俺は迷惑だとも思ってねえし、ふざけんなとも思ってねえから」
告白の後、場を取り繕うために言った自分の言葉が蘇ってくる。
「それに・・・あれから一日だって忘れたことはねえから」
『忘れて下さい、きれいさっぱり』確か私はそう言ったんだった。
ずっと・・・宗介さんは覚えていてくれたってこと?
・・・言葉が出てこない。何て言ったらいいんだろう。ただもう私を見つめる宗介さんのまっすぐな瞳から、目が逸らせない。
「岩鳶のお前にこんなこと言うの、間違ってるかもしんねえけど・・・明日は、俺の・・・俺達のリレーを見ててくれ」
「・・・・・・」
「・・・話はそれだけだ・・・・・・それじゃあな・・・コーラ、サンキューな」
その場に佇む私を残して、宗介さんはエレベーターの方へと姿を消してしまった。