第21章 小さなお願い
「うぅぅ・・・」
自分の部屋で机に向かいながら、私は思わずうめき声を上げていた。
「宿題、多すぎ・・・」
県大会から一ヶ月あまり。カレンダーは8月になっていた。まだまだ焦るような時期ではないのはわかっているけれど、なにせ私には部活がある。しかも今は地方大会前の一番忙しい時期。できる時に進めておかなきゃいけないのはわかってるけど、今日も一日部活で疲れた身体にはきつい。特に数学の問題集なんて、わけがわからなくて頭がパンクしそうだ。
「今日はもう寝ちゃって明日やろうかな」
明日は珍しく部活が休み。ずっと練習ばかりでは疲れがたまってかえって効率が悪くなる、ということで設けられた貴重な休日だった。
でもせっかくの休みだから宿題ばっかりじゃなくてどこかに行きたい気もするし・・・
そこまで考えて、ふとある人が心に浮かんだ。考えたって仕方がないのに・・・
(宗介さん、今何してるのかな・・・)
もし私が告白していなければ、明日は少し時間を作ってもらってまたご飯食べに行ったり、なんてことができたんだろうか・・・などとありもしないことを想像してしまう。
・・・県大会の時からの不安はずっと続いている。いや、不安というよりも心配だ。宗介さんの肩・・・もう大丈夫なんだろうか。あれからだいぶ時間が経ったからもしかしたらよくなっているのかもしれない、という淡い期待。そして、あれだけ痛そうにしてたのに簡単に治るわけがないという悲観的な考え、そのふたつが私の中でずっとぐるぐると行ったり来たりしている。・・・でもきっと宗介さんはあれからずっと泳ぎ続けてるんだろう。周りに、凛さんに隠しながら。だからきっと・・・
『凛にだけは絶対に言うな!!!』
そう叫んだ宗介さんの声がまだ耳から離れない。優しい宗介さんからは想像もできない声だった。
誰かに相談したくても、誰にも言えない。だって誰かに言えば絶対に凛さんの耳に入るだろう。
・・・言えない。絶対に言えない。きっと言った方が宗介さんの身体にとってはいいんだ、そう思う。だけど・・・・・・私には言えるはずがなかった。