第20章 県大会二日目・確信
「宗介さんっ!」
「・・・ヒカリ?」
その大きな背中に向かって呼びかけた。久しぶりに名前を呼んだ気がする。ゆっくりと宗介さんが振り向いて、私達は何週間ぶりかに視線を合わせた。
「っ・・・あ、あの!宗介さん!」
「・・・なんだ?」
ぶっきらぼうに宗介さんが答える。いつだって宗介さんの言葉は、その奥に優しさが感じられたけど、今の宗介さんからはそれが感じられない。宗介さんと話してるのに、宗介さんではないみたいだ。
「その・・・すごく・・・すごく失礼なことを言ってしまうかもしれません・・・さ、最初に謝っておきます・・・」
「・・・」
宗介さんは何も言わずに私を見下ろしてくる。怖い。宗介さんの瞳は私を見ているのに、私ではないどこか違うところを見ているようだ。宗介さんの心がまったく見えない。
・・・でも、言わなきゃいけない。
「今日の宗介さんの泳ぎ・・・途中から何かおかしいなって思いました。最後の方で、一瞬スピードが落ちたような気がして・・・」
「・・・」
「わ、私の勘違いだったらいいんですけど・・・その・・・宗介さん、昨日のバッタも出てなかったし・・・」
「お前の気のせいだ」
吐き捨てるようにそう言われた。その語気の強さに怯んでしまう。
・・・でも違う。気のせいなんかじゃない。
「・・・う、嘘です!だって、私わかるから!!宗介さんの泳ぎ、回数は少ないかもしれないけど・・・それでも合同練習の時はいつも見てたから。宗介さんが泳いでる時は、ずっと・・・ずっと目を離さないで宗介さんだけを見てたから!・・・だからわかります・・・」
・・・こんなのもう一回告白してるみたいだ。ずっとずっとあなただけを見てた、なんて。恥ずかしい。でもここでひけない。宗介さんの目を見てはっきりとそう言うと、ほんの少しだけ宗介さんの瞳が揺れた気がした。
「・・宗介さん・・・もしかして、その・・・どこか怪我をしてるんじゃ・・・」
「んなわけねえだろ・・・俺、もう行くわ」
・・・これは、ずっとずっと不安に思っていたこと。そうでなければいいな、否定してくれたらいいな、そう思って聞いたのに、宗介さんは途端に私から逃げるように行ってしまおうとする。