第2章 望むならプレゼントを
跡部景吾は自分の妹である跡部史佳を大事にしていた。
何よりも、とまでは行かないが、それなりに大事にしていた。
テニス部メンバーにシスコンと言われる程度には過保護だった。
それは何も自分の妹だからなどという理由ではなく、史佳が史佳だから自分は彼女を大事にしているのだろうと彼は考えていた。
というのも、妹が史佳以外の人間、例えば夏川莉香のような女だったら、今ほど大事にはしていないと思うからだ。
むしろ何故こんなのが自分の妹なのかと天を呪ったはずだ。
けれども史佳は違った。自分の妹に足る少女だった。
その優秀さ、美しさ。跡部景吾の妹に相応しい。
文武両道とはよく言ったもので、頭は自分と同じくらいいいし、運動神経も悪くはない。
根を詰めてやっていないので平均以上という程度だが、自分のように本気でスポーツか何かをすればあっという間にトップを狙えるようになるだろう。
顔立ちも、母親似の自分とは違い父親似だが、穏やかそうな、暖かな雰囲気のある美人には変わりない。
そして何よりも、その性格。
例え史佳が無能でも不細工でも、性格が今のままならきっと自分は今と同じように愛しただろうと跡部は確信している。
慎ましく優しく穏やかな、争いを好まない自分とは全く異なる性格。
柔らかさの中に潜むのは、一本筋の通った芯の強さ。
跡部は、史佳の全てを愛していたが、特にその人格を好んでいた。
なのに。
「う、ひっく、うぇっ」
「………史佳?」
「お、おにいちゃっ……ふええっ」
なんで、可愛い愛しい大事な大事な俺の妹が、泣いているんだ?
誰が、俺の許可なく泣かせたんだ?
俺の愛したものを、俺以外が傷付けるなんて、あってはならないことだろう。なあ?
「どうした、何があった」
「な、なんでもな」
「嘘つけ、それがなんでもねぇって顔かよ。言え、聞いてやる」
家に帰った自分を待ち受けていたのは、いつも通り仕事が忙しくて帰って来れない両親のいない屋敷と。
いつも通りではない、妹の部屋から聞こえてくる押し殺すような泣き声だった。