第1章 随分長い事優しい妄想に囚われていたので、
そりゃあ、寂しいし腹が立つけど、そんなのは私の勝手だもの。我慢する。
好かれるために生まれた人なのかもしれないし。けど、それとこれは違う。
でも、あの子を辞めさせる方がみんなのやる気を削ぎそうで、何も言えなかった。
嫌いでした。あの子がとてもとても嫌いでした。
でも我慢したの。あの子はみんなに好かれていたから、あの子が嫌いなんて言ったらみんな悲しむから、言わなかったの。態度にも出さなかった。
なのに、どうして?
私、何かしてしまったの?
貴方に嫌われるようなこと、私、してしまった?
「ちゃうよ、ちゃう。史佳はよう頑張ってくれとる」
「ならどうして?私のこと嫌いになったんですか?」
「そんなことあらへん。けどな、」
あの子を好きになってしまったから。
こんな気持ちで私と付き合っているのはあの子にも私にも失礼だから。
「別れよ」
我慢したよ。あの子が嫌いで嫌いでたまらなかったけど、一ヶ月我慢したんだよ。
その、私が我慢しなければいけないような行動しかしていないあの子と過ごした一ヶ月に、私の一年と少しは負けたというの?
ねぇ。侑先輩。
納得できなかった。認めたくなかった。
でも、それよりも先輩に迷惑をかけたくなかったから。先輩を困らせたくなかったから。だから。
「は、い。別れましょう。私を好きではない人とお付き合いしていても、悲しいだけですよね」
精一杯笑って、私は彼が私から離れていくことを承諾した。
侑先輩、嫌です。駄目です。
行かないで。好きじゃなくていいです。傍にいて。
私のものでいて。他の誰かのために、私を切り捨てないで。
先輩。
世界で一番好きでした。貴方のためならなんだってできたのに。
「…っ…う…」
涙が止まらないんです。
なのに、どうして拭ってくれないんですか。どうして慰めてくれないんですか。
貴方は私が好きだったんじゃないんですか。
捨てないで、なんて安い台詞だけは、どうしても言えなかった。
私にだってプライドがあるんです。