第1章 随分長い事優しい妄想に囚われていたので、
嫌いでした。あの子がとてもとても嫌いでした。
でも我慢したの。あの子はみんなに好かれていたから、あの子が嫌いなんて言ったらみんな悲しむから、言わなかったの。態度にも出さなかった。
ある日何の前触れもなくやって来た監督の姪、夏川莉香さん。
すごく可愛い子。全身に甘い空気が漂っていて、ああ、好かれる体質なんだろうな、って思った。
けれど、監督の姪なのだからよっぽど有能なんだろうと思いきや、その真逆。
全く使い物にならなかった。何かやらせればあり得ない失敗をした。
でも、おかしいの。
もし私がこんなことしたら、いくら優しいみんなでもちょっとくらい怒るはずの失敗も、笑いを買って仕方ないなぁ、で済まされちゃうの。
おかしいよ。
ねぇその失敗で今無駄なお金がかかったよ?
無駄な時間を取られたよ?
なんで怒らないの?辞めさせないの?
プレーヤーと同じで、優秀なのしかいらないのがマネージャーじゃなかったの?
おかしいよ。
何をやらせても駄目なのに、監督が辞めさせないから仕方なく簡単な仕事だけを振った。
ドリンクやタオルを配るとか、それぐらい簡単なことだけ。
少しは自分の無能さを自覚したかと思いきや、全くしない。
私がこなしている仕事の何十倍も簡単な仕事をやるだけで、自分は仕事をしているって思い込んでる。
信じられないことに、みんなもそう思っているみたいだった。
違うよ。それは一番簡単な仕事だよ。小さい子にもできるような、単純な仕事なんだよ。私の方が働いてるよ。
その子が失敗するせいで増えた仕事もやらなくちゃいけないから、最近みんなと会わないで練習が終わっちゃったりするんだよ。
気付いてないの? ねぇったら。
それだけならまだしも、他校に偵察と称して迷惑をかけたり、かけた筈なのにまた向こうで好かれたり。
分かってるの?
大会前で、問題を起こしたら出場できなくなるかもしれないんだよ?
なんでそんな危ないことするの?
綱渡りにしか見えないことをして、みんなを危険に晒している。
何をしても許されるとか、好かれるとか、そんなことはどうでもよかった。
みんなに綱渡りをさせているっていう、そこだけが許せなかった。