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弾けて壊れた私の話

第5章 失うものなど


 サーッと莉香の顔から血の気が引いていく。
 やばい、好感度駄々下がりしてる!

 しかし、信頼を取り戻す術は少しも思いつかなかった。

「もういい、てめぇを信じた俺が馬鹿だった。明日にでも史佳を呼び戻す。てめぇはもう一回一から教えてもらえ、この無能」
「跡部、それは言い過ぎや」

 ヒートアップする彼の罵倒を止めたのは、忍足侑士だった。
 莉香はしめたと心の中でほくそ笑む。

 こいつはあたしに惚れてるからなんとかしてくれる!

「莉香ちゃんはホンマに何も知らんかったんやろ。自分が出来る範囲の事をやっとってくれたんや。そんな子にそないな口利くのは失礼やで?」
「はん、仕事ができねぇ奴に用はねぇんだよ。忍足、てめぇこそ目ぇ覚ませ。
 そいつは何であれ、仕事の大半を史佳に押し付けててめぇらとくっちゃべってたんだよ。
 今まで短期間入っては止めてったファンクラブに入ってねぇ頭の悪ぃ男目当ての女共と一緒だろ」
「……例えそうだとしてもや。女の子を怒鳴ったらあかん」
「ちっ、分かったよ」

 跡部は埒が明かないと判断したのか、会話を打ち切った。
 時計を見てそろそろ朝礼が始まることを知り、解散と声を掛ける。

 レギュラーたちはちらちらと莉香に視線をやりながら、ぞろぞろと部室へ入っていった。


(ムカつくムカつくムカつく!!!)


 その場に取り残された莉香は、ぎりり、と拳を握り締めていた。

(なんであたしが怒られなきゃいけないのさ!意味わかんない!!)

 彼女は、反省などしていなかった。
 ひたすらに、史佳を罵倒していた。
 それが自分の首を絞めているなどと、やはり彼女は気付かなかった。


 跡部史佳は、充実したマネージャー業に上機嫌だった。
 跡部景吾は、莉香を怒鳴り飛ばせて上機嫌だった。
 日吉若は、怒鳴られる莉香を見ることが出来て上機嫌だった。

 他のテニス部レギュラーは、胸中に生まれた不信感をもてあましていた。

 夏川莉香は、ひたすらに、腹を立てていた。
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