第5章 失うものなど
別に史佳ちゃんが嫌いというわけではなかった。
ただ、ちょっと羨ましいと思っていた。
だって何でも出来て何でも持ってるって、ずるいじゃん。
(史佳は努力をしていた。現状に甘んじたことなど無かった。
むしろそれによって発生するあらゆる苦難に立ち向かっていた。それを彼女は知らない)
そんな子が、あたしに負けた。
それってすごく、気持ちイイ。
ざまあみろ。あんたはあたしより下なんだ。
湧き上がる歓喜を跡部に悟られないように、あたしは顔を取り繕って跡部に聞く。
「分かりました。でも大丈夫ですか?史佳ちゃん」
自分の妹を心配する子なんて、好感度アップに決まってる。
このまま跡部も落として、史佳ちゃんのあらゆる一番を全部奪ったら、史佳ちゃん、どんな顔するんだろ。
見てみたいなぁ。あたし、ああいういい子ちゃん、可愛いし好きだけど、少しは嫌いなんだよね。
紙面上にいるならいいんだけど、実際いたらなんか、イラッとするっていうか。
そんなことを考えながら、あたしは跡部に話しかけ続けた。
あたしは気付かなかった。跡部があたしを見つめる瞳が変わらず冷たいことに。
冷たく、あたしを観察していたことに。
(こいつ、欠片も罪悪感を感じてねぇな。むしろ、喜んでやがる)
少しでも史佳に対して悪いと思ったら、追い出し方をソフトにしてやろうと思っていた跡部は、たった一回だけ莉香に使われた優しさをすぐに取り下げた。
(やっぱり、許さねぇ)
莉香は、やはり気付かないままだった。